健康住宅研究所
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岩前教授 トークセッション<前編>
2024.10.10更新
近畿大学副学長 岩前篤 教授 スペシャルトークセッション<前編> -これからの「健康な住まい」の在り方
「機能と美と健康」を掲げる健康住宅は、健康な毎日を過ごすということに住まいの環境が密接に関係していると考えています。断熱性や気密性など、住宅性能のポイントは数多くありますが、私たちはどのように高性能住宅を考え、理解していけばよいのでしょうか。 この度、新ブランド発表イベントに近畿大学副学長の岩前篤教授をお招きし、健康な住まいの在り方について、健康住宅代表の畑中 直と専務の畑中 弘子を交えてのトークセッションを行いました。 健康住宅ラボでは講演を前編と後編に分けてお送りいたします。 前編として、岩前教授の語るこれからの「健康な住まい」の在り方をご紹介します。
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岩前 篤 教授
近畿大学副学長 建築学部教授 建築学部 建築学科 総合理工学研究科所属 建築物における健康で快適でエネルギー性能に優れた住宅を研究。日本・アジア気候特性と暮らし方に基づく計画手法、ゼロエネ技術、健康維持増進技術を対象とした研究。 -
皆さんは住まいに、何を求めているでしょうか? 性能の良さや快適さなど求めるものは多くありますが、やはり家というものは心身共に休息できて安らげる場所だと私は思っています。 高性能住宅について講演をした際に、お客さんからの声でよく耳にするのが「高気密高断熱の良さはわかるけれど、やはり朝日を浴びて目を覚まし、自然の風を感じる暮らしに憧れます」という意見です。お気持ちはわかります。けれど身体をしっかりと休ませるには、やはり温度や湿度が適切に管理された、快適な環境で過ごすのが一番です。 人気のキャンプも、たまに行く非日常だからこそリフレッシュできるのであって、毎日自然環境の中で過ごしていると、身体は疲れてしまいます。 日常と非日常を分けて考えていただいた方が、健康な住まいをイメージしやすくなるでしょう。
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さて、来たる2025年4月には「EXPO 2025」として、大阪で70年ぶりに万国博覧会が開催されます。この万博で私が特に気になっているのが「大阪ヘルスケアパビリオン」です。 テーマは「未来の医療」で、自宅(ホームホスピタル)や街なか、交通機関などに医療を組み込み、社会全体を医療機関にして病気を予防しようというビジョンが掲げられています。 これからの医療は病院中心で行われるものではなく、住まいが健康をつかさどる場所になっていくというのがコアにあり、住まいから考える健康対策は今後一層注目されていくと予想されます。 家づくりではよく「快適な住まい」という表現が使われます。ここでみなさまに改めてお伝えしたいのは、「健康」と「快適」は全く異なるという点です。この点について、詳しくお話ししていきます。
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「快適」と「健康」は、似ているようでいて、実は全く異なる意味をもつ言葉です。たとえばタバコを吸うと、くつろいだ気持ちになって快適に感じられますが、身体への影響は大きく、決して健康的ではありません。害があるとわかっていてもつい吸い続けてしまうのは、人間には気持ちよさや心地よさを求める傾向があるからです。 家づくりに関しても同様で、快適さを追求した結果、さまざまなスタイルの住宅が生まれてきました。しかしそれが本当に「健康につながるのか」と考えると、当てはまらないものも多いでしょう。 最近では住まいの環境と健康に密接な関わりがあると考えられており、医療業界が住宅環境に非常に大きな関心を示しています。若さを保つアンチエイジングには、これまで食事・栄養・運動・睡眠が重要であるとされてきましたが、今はどのような環境の住宅に住んでいるかも問われるようになってきました。 住まいの性能が目で見てわかるように、数値を測定するのは重要です。しかしその結果を健康につなげるには、やはり人のことを研究し、人のことをもっと知る必要があるのではないでしょうか。 実際に、今年の5月に熊本で行われた抗加齢学会では、住宅の健康度に関する調査発表が行われています。我々はもっと住環境と健康の関係に敏感になって、住宅が健康長寿の要になるという点を意識していくべきだと思います。
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新築住宅に対する省エネ基準適合の原則義務化が2025年に施工され、さらに2030年には省エネ基準がZEH水準に引き上げられる事を受け、住宅業界ではZEHへの取り組みが盛んに進められています。ZEHとは「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略語です。家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」を目指します。 興味深いのは、このZEHを義務化する2030年というタイミングが、日本とカナダで同じであるという点です。カナダはいわば断熱先進国として知られており、日本はこれまでカナダをお手本に、住まいの断熱性を研究してきました。 自分なりに模索した結果、日本とカナダでは断熱の仕組みとZEHの意味合いが異なることに行きつきました。 カナダが暖房ベースの「暖房ZEH」を推進しているのに対し、日本で目指しているのは「採暖ZEH」です。 「採暖」は私がつけた名前ですが、たとえば日本では、部屋の暖房を人がいる間だけつけて、外出などで人がいなくなったら消しますよね。これを「採暖」と呼びます。「各室完結暖房」という呼び方もありますが、基準になっているのは暖を取る暮らしです。 一方、「暖房」の本来の定義としては、秋の終わりから春が始まるまでの期間、家全体の温度を保つことをいいます。暖房は部屋を暖めるのが目的なので、人がいてもいなくても関係なく稼働させるのが、暖房という行為です。 採暖が居室に限って暖めるのに対し、暖房は家全体をくまなく暖めるので、暖まるまでの所要時間と暖める対象の体積が大きく異なります。そのため日本の採暖タイプの暖房と比べると、カナダの暖房の方がおよそ5倍もエネルギー消費量が多いです。 これまでは、住宅がそこに住む人に対して「健康」「不健康」という影響を及ぼすという考えがありませんでしたので、採暖も暖房もどちらも「快適」と見なされていました。 しかし採暖が主流になった日本では、10人に1人が低温の影響で亡くなっています。この低温は外の寒さではなく、室内の温度。厳密にいうと室内の温度差が原因です。 エネルギー消費量は少ないが、健康には貢献しない採暖主流のZEH義務化を推し進める日本に対して、海外はエネルギー消費量は多いが、健康に貢献する暖房主流のZEH義務化を目標としています。 日本ではこの採暖生活がスマートソリューションとされ、私たちは賢い選択をしていると信じていますが、視点を外に向けると実は大きく後れを取っている事がわかります。 このような中、外断熱仕様で創業当初から高断熱に特化した住宅を建てている健康住宅さんには、非常に大きなアドバンテージがあるのではないでしょうか。
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近代化以前は、人間の平均寿命は40歳ぐらいであったといわれています。 自然環境にさまざまな技術で対抗し、私たちは住環境を整えて寿命を伸ばし、健康で幸せな暮らしを目指してきました。 日本でも厚労省がWHOのガイドラインを引用し、冬の室温は18℃以上で過ごすのが適切と紹介しています。つまり、住宅の性能がそこに住む人の健康を左右するという事実が、厚労省によって正式に認められたのです。 世の中の流れが変わる中、新しく参入・対応するのではなく既に実績を持っているというのは、大きなアドバンテージです。この「冬場の室温18℃以上」という基準は、健康に暮らすための一つの指標です。 高断熱で健康な住まいの普及は、家族の健康だけでなく日本の健康にもつながっていきます。そのアドバンテージを日本の健康に大いに活かしてください。
お話しいただいた方
住まいが健康をつかさどる
「快適」と「健康」はイコールではない
日本の採暖ZEHと、カナダの暖房ZEH
健康な住まいの提供こそ、地域と日本の健康につながる
対談を終えて
岩前教授より、これからの健康は住まいが起点となるものであり、住宅の「暖かさ」を支える断熱こそ、家族の健康を支えるのに大切だとお話しいただきました。
健康住宅の家づくりを通して「健康問題」という大きな社会課題を解決の一助となれると考えております。今後も、高断熱住宅の普及に取り組んでいきます。
続く後編では、健康住宅代表の畑中直と専務の畑中弘子、そして岩前教授の3名によるトークセッションをお届けします。