健康住宅研究所
松尾先生 特別講演「健康で快適な省エネ住宅の実現」<リフォーム編>
教えて松尾先生!快適な省エネ住宅をつくるには?<リフォーム編>
新築住宅の価格高騰が進む中、中古住宅のリフォームやリノベーションが注目されています。新築住宅に関する省エネ基準適合の義務化や、ZEH水準の省エネ基準を目指す取り組みも進められており、これからは省エネ効果の高い高性能住宅が主流です。 今後はリフォームでも、断熱性と省エネ性能を高めるための「高断熱リフォーム」が求められるようになるでしょう。今回は「断熱の鬼」と称されるほどの専門家、松尾設計室代表取締役の松尾和也先生による、高断熱リフォームの重要性についての講演内容をご紹介します。
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建築士 松尾 和也
株式会社松尾設計室 代表取締役 JIA登録建築家 APECアーキテクト -
松尾先生
室内環境と脳卒中リスク 日本人の死因上位を占める脳卒中の多くが在宅時に発症しているのを、みなさんはご存じでしょうか?
寝室やトイレ、浴室など。屋内での脳卒中の発症率は、全体の約8割にも及びます。
発症に大きく関わっているのは、室内の温度差。慶応義塾大学の井川教授の研究では、冬場に一度暖かい家に住むと、脳神経が2歳若くなることが明らかになりました。
断熱性が低く冷え込みやすい室内では、血管の拡張や収縮が繰り返されます。それにより動脈硬化の進行リスクが高まるとともに、脳の劣化が早まるというのです。
脳卒中や脳梗塞といった脳血管疾患は、発症後に後遺症が残るリスクが非常に高く、要介護状態に至る要因でもあります。
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ヒートショックと断熱性能の重要性 昔の住宅でよく見られるのが、寒い室内で布団を何枚も重ねて就寝するスタイルです。
10℃以下の寒い部屋で就寝していると、いくら布団が暖かくても呼気によって内臓が冷やされて体温が低下。特に肺が冷えると、近くにある心臓も冷えやすく、心室細動という非常に危険な状態に陥りやすくなります。
昔から冬に暖かい布団の中で亡くなる人が多いのは、この心室細動による心疾患も理由の1つです。
室内の温度差が原因となり、これらの脳疾患や心疾患が冬の自宅で起こることを「ヒートショック」と呼びます。
ヒートショックが原因で亡くなる人は、年間でおよそ1万9,000人。交通事故での死者数は、2016年の統計で年間およそ4,000人、東日本大震災で家の倒壊などで亡くなった人は500人以下です。交通事故や住まいの構造よりも、家の寒さが原因で亡くなる人が多いのがわかります。
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日本の住環境と断熱課題 日本の住環境は、昔から夏は暑くて冬は寒く、結露やカビが発生するのも当たり前でした。
しかし先進諸国の例を見ると、イギリスでは家全体の室温が19℃以下だと健康リスクが高まるという認識が定着し、実際に断熱性の低い住宅では生命保険の料率が高くなります。またアメリカでは全50州のうち24州で断熱性の低いアルミサッシが禁止され、ドイツでは室温19℃以下は「基本的人権」を損なうとまで言われています。
日本は室内環境への認識について大きく後れを取っており、断熱に関して今後必ず解決すべき課題と言えるでしょう。
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高断熱リフォームのポイント 高断熱リフォームで、ぜひ実施してほしい部分は次の4ヶ所です。
- 在来浴室のユニットバス化
- 窓の高断熱化
- 床断熱の補強
- 天井断熱の補強
工場でつくられたパーツを現場で組み上げるユニットバスに対し、現場で一から作り上げる浴室を「在来浴室」と呼びます。もし自宅や実家が在来浴室なら、何よりもまず浴室のリフォームを優先してください。
在来浴室は室温の差が発生しやすいだけでなく、保温能力も低いため、湯が冷めるのを防ぐために41℃以上の高温で湯をはる傾向があります。
血圧は短時間で変動しやすく、寒い脱衣室で服を脱いだ瞬間に上がり、熱い湯に入ると急激に下がります。血圧の乱高下が激しいほど、心臓をはじめとする循環器系への負荷が増え、命に係わる重大な疾患を引き起こすことです。
家の断熱性能改善には、窓の断熱リフォームも欠かせません。室内の熱の多くは窓を通して出入りします。熱の出入りを防ぐには、断熱性の高いペアガラスやトリプルガラスを使った窓に交換するほか、内窓を設置するのも効果的です。
先進的窓リノベ事業の一環として、窓のリフォームには補助金が支給されますので、比較的検討もしやすいのではないでしょうか。
家の断熱性を高めて室内の寒さと暑さを取り除けば、病気にならずに健康でいられる可能性が高くなります。
介護が必要になる要因には、脳卒中や心疾患、さらには血管認知症などの疾患が全体の約26%を占めています。家の断熱性を高めてヒートショックを予防することは、事前にできる数少ない介護予防策と言えるでしょう。
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リフォームの断熱補強と費用の考え方 一から建てる新築住宅とは異なり、リフォームでは「見た目の改修」や「構造補強」、「断熱補強」など、どの部分にどこまでコストをかけるかで、予算の組み方も変わります。さらに30代と60代の高断熱リフォームでは、今後住むであろう年数が異なるため、リフォームにかけるべき金額も変わるでしょう。
建物の大きさや断熱性・気密性の状態によっては、あえて全体を断熱せずに、細かくエリアを区切って使うところだけ集中的に断熱リフォームをするのも、高い効果が得られます。全体改修か局所改修かの判断は、建物の状態に応じて変わりますし、場合によっては建て替えた方が経済的に有利なケースも少なくありません。
また、断熱改修を優先するのか、設備更新を優先するのかという問題もあります。基本的には、エコキュートなどの電気温水器を使用されている家庭以外は、断熱改修を優先しましょう。エアコンの効きが悪く困っていたけれど、断熱改修をして家の断熱性能が上がったら、今までと同じ空調で快適さを保てるようになったケースもあります。
もしエアコンを適切に稼働させているのに、まったく快適にならない、エアコンが効かないという場合は、家の断熱性能が低い証拠です。断熱リフォームによる早めの対処を検討してください。
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断熱性が低い場合の対策 家の断熱性能が大きく下がっているときは、健康のためにも早急に対策するのがベストですが、さまざまな事情ですぐに改修できないこともあります。プロに頼む前に自分で対策する場合は、次の3つの方法を試しましょう。
- 畳の下に透湿防水シートや薄い断熱材を敷く
- 障子を高断熱化する
- 簡易的な内窓をつくる
透湿防水シートは結露防止の効果があるシートで、ホームセンターで購入できます。畳を取り外す手間はありますが、個人でできる断熱対策としては比較的取り入れやすく、効果も高いです。
昔ながらの障子があるご家庭なら、障子を両面に貼るのが効果的。ほかにも障子と障子の間にスポンジテープを貼って隙間を埋め、気密性を高める方法があります。最近ではDIYの普及により、大枠とポリカーボネートを使って簡易的な内窓をつくる人も増えました。見た目は多少変わりますが、窓の断熱効果の向上は期待できるでしょう。
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断熱性能と健康の関係 お話ししてきたように、家の断熱性能は健康の維持に大きく関わります。
特に身体の抵抗力が下がる高齢者の自宅では、築年数が経っていることもあり、断熱対策が十分でないケースが多いです。ご両親や親戚の方で該当する方がいれば、トイレと脱衣室だけでも暖かくするように伝えてください。できることなら、医師の方や市役所といった公的な機関で、地域の方に断熱の重要性を広く伝える勉強会を開催できるのが理想です。
もし本格的に断熱改修をはじめるときは、優良なリフォーム業者を見分けるために、ぜひ「気密測定をしたことがありますか?」と聞いてみてください。「家のすき間」を表す気密を重要視していないリフォーム業者は、断熱に関しても満足な施工ができない場合が多いです。
新築と比べて、リフォームは工事に必要な材料の購入量は圧倒的に少ないため、コストに占める技術料や人件費の割合が多くなります。品質とコストの両面での満足度はリフォーム業者選びが左右すると言っても過言ではありません。
日本は他の先進諸国と比べて、中古住宅の価格が著しく低いですが、これは裏を返せば、多くの中古住宅が安価で市場に出回っているということでもあります。
土地や新築住宅の価格が高騰する中、中古住宅を購入して高断熱リフォームをする選択肢はますます有効になっていくでしょう。ぜひ本日お話ししたことを参考に、効果的な高断熱リフォームを検討してください。
対談を終えて
松尾先生より、高断熱リフォームという観点で快適な省エネ住宅をつくることに対する大切なポイントについてお話しいただきました。
世の中の物価が高騰し続けていく今だからこそ快適で省エネな住宅がより重要だということを、専門的なお話を交えてお伺いさせていただきました。
健康住宅として、皆様の理想の暮らしに寄り添ったご提案をし続けていくために、今後も「機能と美と健康」というブランドミッションを掲げて励んでまいります。